製造業の品質管理において、目視検査の「ばらつき」や「人手不足」は深刻な課題です。AIによる不良品検知は、この課題を解決する技術として急速に普及しています。
本記事では、中小企業から大手食品・鉄鋼メーカーまでの最新事例を紹介し、導入メリット、AIの精度を高めるデータ戦略、開発成功のポイントまでを網羅的に解説します。
従業員18名の地方中小製造業において、熟練工の高齢化と人手不足により、目視による品質検査がボトルネックとなっていました。そこで、クラウド型のAI不良品検知システムを導入。過去の良品・不良品画像をAIに学習させ、部品の「傷・欠け・変形」を自動検出する仕組みを構築しました。
結果として、不良品率を35%削減、検査時間も約40%短縮することに成功。小規模な現場でもAIを活用し、品質のばらつきを解消して熟練工依存から脱却した事例です。一方で、照明など環境変化による誤検知には継続的なモデルの再学習が課題となります。
参照元:Chiho AI 導入事例集
https://chihoai.com/articles/20250707
キユーピー株式会社は、食品製造ライン上の不良原料(異物・変色・形状不良)検知にAIを活用しました。高速で流れる原料を目視で全数確認することは困難でしたが、既存のラインカメラ映像をAIがリアルタイムで解析。ディープラーニングを用い、原料の形状・色・動きから異常な個体を判別します。
これにより、不良原料の検出率が大幅に向上し、検査工程の生産性も約30%向上。作業員の負担軽減と食の安全維持を両立させました。食品特有の色むらや光の反射への対応が開発の鍵となりました。
人間の目による検査は、作業員の経験、集中力、その日の体調によって、どうしても判定結果に「ばらつき」が生じてしまいます。AIは明確な基準に基づき、24時間365日、疲れを知らずに一定の精度で検査を実行します。
目視では見落としがちな微細な欠陥や、人間が苦手とする高速ライン上の検知を得意とし、検査品質を安定化・均質化できる点が最大のメリットです。
AIによって製造ラインの早い段階で不良品を検知・除去することで、不良品が後工程に流れたり、最終製品として市場に流出したりするリスクを最小限に抑えられます。後工程での手戻り作業、製品の廃棄、さらにはクレーム対応やリコールといった莫大なコストの発生を未然に防ぐことができます。
目視検査では「不良品が出た」という結果しか残りませんが、AI検査では「いつ、どのラインで、どのような種類の不良が、どれだけ発生したか」がすべて画像データやログとして蓄積されます。
これらの品質データを分析することで、不良発生の根本原因を特定し、製造プロセス全体(材料、加工条件、装置設定など)の改善につなげる「予防保全」活動が可能になります。
高精度なAIモデルを開発するためには、学習の基盤となる「画像データ」が不可欠です。「傷」「欠け」「変色」といった「不良品(NG)」の画像はもちろん重要ですが、それ以上に「正常な状態(OK)」を定義づけるための「良品」の画像データが大量に必要となります。
AIは、まず「良品とはどういう状態か」を深く学習し、そこから逸脱するものを「不良」として検知するため、良品データの網羅性がAIの基盤となります。
収集した不良品の画像データに対し、「どこが、どのような不良なのか」を人間が明示するラベル付け(アノテーション)が必要です。例えば、「画像のこの範囲が"ひび割れ"である」とAIに教え込むための教師データを作成します。
このアノテーションの定義(例:3mm以上の傷を「不良」とする)と精度が、そのままAIの判定基準となるため、非常に重要な工程です。
AIモデルを開発ラボで完成させても、実際の製造ラインで使えなければ意味がありません。製造現場では、照明の明るさ、外光の差し込み、製品の微妙な色の違い、ライン上のホコリや油膜など、様々な「環境変動」が発生します。
こうした実環境で想定される様々なパターンのデータをあらかじめ収集・学習させておくことで、現場のノイズに惑わされない、頑健(ロバスト)なAIモデルを構築できます。
AI不良品検知の開発を成功させるには、まず「何を不良品とし、何を見つけたいのか」という検査基準(ゴール)を明確に定義することが不可欠です。この定義が曖昧なままでは、AIの判定結果と現場の感覚にズレが生じてしまいます。
その上で、AIの精度を左右する「学習データの質と量」が鍵となります。特に、発生頻度の低い「まれな不良」の画像データや、実ラインの照明・環境変動を考慮したデータをいかに戦略的に収集・整備できるかが、プロジェクトの成否を分けます。現場環境とAI技術の両方を深く理解し、データ戦略から運用までを伴走できる開発パートナーと連携することが成功への近道です。
AI不良品検知の開発を成功させるには、導入前はもちろん、導入したあとも密にコミュニケーションを取れるベンダーに依頼するのがおすすめです。このサイトでは企業の課題解決に向き合う人材やサポート体制に力を入れているベンダーを紹介していますので、是非ご参照ください。