建設業界で進むAI開発や導入にはどのような動きがあるのでしょうか?ここでは、実際に建設関連企業で導入されているAIの成功事例を取り上げて紹介しています。
高層ビルなどの建設物で、地震や強風などへの振動対策「制振技術」は、建物内部に設置された装置によって揺れが抑制されています。大林組とLaboro.AIの共同プロジェクトとして、制振技術の一つであるアクティブ制振(AMD:Active Mass Damper)にAIを活用しています。
機械学習エンジニアで物理計算に基づいたシミュレーション環境を構築し、効果の高い制御則を獲得。大林組技術研究所内に作られた橋で実験。人が歩いた際に振動をどれほど制御できるのかを検証。
シミュレーション環境で約2万回におよぶ実験をおこない、AIが学習し短い時間で効果的に揺れを抑えるための動きを習得。実際の橋の制御システムなどに転用しています。
対応内容 | 異常検知 |
---|---|
開発企業 | Laboro.AI |
洪水などの災害から守るコンクリート護岸の点検・改修業務では、これまで熟練の技術者による目視点検がおこなわれていました。AI技術により、コンクリートのひび割れなどの劣化を画像から自動で判断できるアルゴリズムを開発。
Googleの深層学習ライブラリ「TensorFlow」を使ってアルゴリズムを実装し、劣化検知アルゴリズムには建設業界モデル「U-Net」や「ResNet」を応用。撮影された画像から敵対的生成ネットワークで生成したデータを使い、コンクリート護岸以外のものが映りこんだ場合でも必要な部分がしっかりと判定されるようになっています。
対応内容 | 建設業界 |
---|---|
開発企業 | 株式会社ブレインパッド |
2021年に、生産性向上のため、HEROZ株式会社と東洋エンジニアリング株式会社が、プラントの設計・建設に関するAI技術活用とAIシステムの共同開発をスタート。EPC(設計・調達・建設)を強化することためのシステムを作り、東洋エンジニアリングのすべてのプロジェクトに導入することで、DXoT(Digital Transformation of TOYO)が目指す生産性の向上を実現しようとしています。
DXoTは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでおり、2024年までに生産性を6倍にすることを目標にしています。EPCだけでなく、営業や経理、プロジェクトや情報管理など、様々なビジネスに対して総合的に取り組んでいます。
対応内容 | EPC強化 |
---|---|
開発企業 | HEROZ株式会社 |
建機の取り扱いに長けた熟練技術者の高齢化が進み、技術伝承のニーズが高まっている建築現場において、アラヤではAI技術の強化学習・模倣学習技術の応用で対応。アラヤの自律エージェントチームがAI技術の応用で建設機器などの操縦のオートメーション化。自律的・効率的な作業をおこなう自立建機にすることで、現場作業にかかる労力が効率的されることを目指しています。
自立機器へのアプローチには、シミュレーション現場や実際の現場において様々な操縦を試行錯誤する「強化学習」と、熟練技術者の手本データを元に操作を学習する「模倣楽手」の2つ。コストと時間から、まずはデジタルツインでシミュレーション上でおこない、それから現場で動くように調整するやり方で取り組んでいます。
対応内容 | 自動操縦 |
---|---|
開発企業 | 株式会社アラヤ |
従来の建築現場では、現場で必要な工程管理計画や品質管理計画、配置計画などの計画策定業務は、知識と技能を持つ熟練者がおこなっていました。このやり方では特定の人に依存することになるだけでなく、突発的な現場移動や運搬などにかかるコスト調整が大変。計画全体の正確性も懸念されることから、特定の人物だけに頼らない工事計画の立案のコスト最適化のオートメーション化。
現場移動や運搬作業が効率的に、コストも抑えられるように、AIが工事順序の計画を策定し、計画策定者の業務サポートも可能にしたシステムを構築しました。導入後は、短期間での最適化された工事計画の立案・実行が可能になりました。
対応内容 | 需要予測・マッチング |
---|---|
開発企業 | ギリア株式会社 |
鹿島建設では、AIを活用した危険予知活動支援システム「鹿島セーフナビ®(K-SAFE®)」を開発しています。建設現場では「危険予知活動」を必ず行いますが、これは作業開始前にこれから実施する作業に対し発生する可能性のある災害を予測し、対策を立案するものです。
同社では、膨大な災害事例をデータベース化した上でAIによる解析を行い、類似作業の災害事例を見える化。災害傾向を提示することによって、危険予知の精度向上に貢献するシステム「鹿島セーフナビ®(K-SAFE®)」の開発を行っており、災害事例は随時追加が行われています。
データベース化された膨大な災害事例の中から、AIが瞬時に解析を行うことができ、社内・社外のデータから災害傾向の客観的な分析が可能。このシステムは土木や建築問わず、さまざまな現場にて活用されています。
対応内容 | 危険予知 |
---|---|
開発企業 | 鹿島建設株式会社 |
清水建設では、山岳トンネル工事の施工管理業務を効率化するためウェブカメラのライブ映像を活用してトンネル坑内の作業状況をAIで自動判定し、施工関係者にリアルタイムで展開する「AIサイクル自動判定システム」を開発しています。
山岳トンネル工事を行う場合、坑内の作業状況について外から把握するのが難しい点が、施工管理を行う上で課題となっていました。これまではカメラ映像の限定的な情報や個人の経験・感覚をもとに坑内の状況を推察しつつ作業工程を調整していましたが、想定が外れた場合には作業員の待機が発生するなど生産性が下がる原因となっていました。
しかし「AIサイクル自動判定システム」を、2つの現場にて試験導入した結果、現場職員の坑内待機時間が約40%削減されるなど、システムの有効性が確認されています。
対応内容 | 作業効率化 |
---|---|
開発企業 | 清水建設株式会社 |
建設向けのAI開発などにおいて、ビッグデータを自動で集めて勝手に処理し、素晴らしい結果を出してくれるといった思い込みをもっている顧客もおり、エンジニアにとっては悩ましい、AI開発において大きな課題になっています。データの蓄積が少ない現場ではAIの解析に必要な量のデータを集めるのは難しく、データであれば何でもいいわけではないので人が選定する必要があります。
多くは技術者が作業しており、AIがその真価を発揮するには時間と再学習が必要だという理解がないと失敗のリスクは高まるでしょう。
建設業界ではさまざまな場面でAIを活用されています。
AIの活用によって作業の自動化を行えるため人材不足の解消につながりますし、少人数でも高いパフォーマンスを維持できるようになり、業務効率化や生産性向上も期待できます。さらに、建設現場では安全性への配慮が非常に重要ですが、AIは安全性を向上させるツールとしても活用可能。従業員がより働きやすい環境を実現できます。
そのほか、材料・資材の在庫管理も最適化されるため、無駄なコストの削減もできるといったように、建設業界でAIを導入することにはさまざまなメリットがあります。
現場によっては、土地の規模や形状など、建築現場のスタッフにしかわからない情報がある点には注意が必要です。また、インターネット上の情報が最新とは限らないため、法令などについては十分に確認する必要がある点にも注意してください。
現在、建築業界でもさまざまな場面でAIの活用が行われていますが、単にAIを導入するだけではなく、それぞれの現場における業務の課題などに合わせて活用していくことが重要といえます。
例えば、「どの業務を効率化したいのか」「AIの導入によりどのような課題を解決したいのか」といった点を明らかにし、関係者間で目的を共有した上でAIを活用していくことが望ましいといえます。
建設業界ではさまざまな人が働いており、中にはコンピューターなどに苦手意識を持っている人もいるかもしれません。このような点からも、いきなり全社的にAIを導入するのではなく、効果が見込める業務や現場から部分的にAIを導入していくことがポイントいえます。導入した業務や現場ではどのような成果が出たのかを検証しながら、段々と導入範囲を拡大していくことがおすすめです。
建設業界は人手不足が深刻化しているともいわれているので、AIの活用はそうした現場の活路にもなります。ただ、建築業では様々な業務があり、求められる技術や知識も異なります。AIの導入には、そうした面でも対応する必要が求められます。
AI受託開発を成功させるには、ベンダーとの密なコミュニケーションが必須となります。TOPページでは企業の課題解決に向き合う人材やサポート体制に力を入れているベンダーをピックアップしていますので、是非比較・検討の参考にされてみてください。